設立趣意書
私共賀茂氏族は、遠く人皇第一代神武天皇ご東征に当りご先導の武勲をたてられ「八咫烏」として尊称される賀茂武角命(賀茂別雷神社ご祭神のご祖父神)の後裔として、とくに早くに賀茂県主姓を賜って山城一円を治め、代々賀茂別雷神社に神職として奉仕し、明治維新により旧制度が廃止された後も賀茂氏族であるが故に社家として神事に奉仕して来たものであり、その一元創生の氏族は二百数十家に分かれて京都を中心として阪神、東京ほかの各地に在住しております。
現在の賀茂県主同族会は、明治九年に各家持回りで行った祖先祭祀に端を発し、昭和十五年に当同族会に改め今日に至ったものであります。
その目的とするところは上記の祖先祭祀のほか、賀茂別雷神社ならびに久我神社(別雷神の御祖父神)に対する神事の奉仕奉賛、系図や関係史料の保存修理、および祖先遺業の顕揚などであります。
賀茂別雷神社については、氏族として有する古い歴史とともに、また神事においても古い伝統があり勅祭葵祭りの走馬の儀ならびに五月節句の競馬会神事に乗尻や所役として長年にわたり奉仕してまいりました。これらは真に我々氏族のみがもつ古くからの神に仕える道と申すべきで永く継承して文化の上にも役立てて行かねばなりません。
また祭祀において極めて重要なご祭神のご神服は我々氏族が調達献上するのが古代からの伝承であり昭和三十八年には損傷著しい御夏衣三組を新製し奉奠いたしました。
また久我神社については昭和十五年神域を拡張し、東面に参道を設け、大鳥居を建設奉納しご神威の高揚につとめ例祭には伝統的にご神饌を奉奠しております。
また我々同族の手で古くから伝承されている系図十六巻は類例希なるもので学問的、歴史的にまた文化財として貴重な存在とされていて、とくに古系図1巻は文永年間に作成されたもので国宝に準じるものとして高く評価されているものであります。
これらは古くから賀茂別雷神社に托して保管されてきたもので長年月による損傷が進み昭和九年に一部を補修し、ついで昭和三十七年九月国立京都博物館内国宝修理室において約半年間の日数を費やし全部を完全に修理し終えました。さらに翌三十八年三月賀茂別雷神社神域に堅固な収蔵庫を新設したことにより完全な保蔵ができるようになりました。
また祖先祭祀は毎年秋季に賀茂別雷神社内で行い遂年参列者が増加し盛大に執り行っており恒例神事として永久に存続しなければなりません。
また祖先の遺業の顕揚としまして明治四十年上賀茂小学校を祭場として中興の祖賀茂在実卿九百年祭式典を広く一般参列者をも得て盛大に斎行いたしました。また近く千年祭を行う予定であります。
以上はその主な事業ですべて公共性をもつものと言えますが、今回系図の修理が完了しその保管が完成したのに際し、これらを公開して学術ならびに文化研究資料の一端となることを願望するところであります。
一方、省みますと、本会の運営について以前は寄付によりましたが、近年は祖先祭の奉賛の一部を以ってするもので運営基盤が脆弱であり経済的にも乏しくこの様な状態では先祖の遺業を継承し新しい時代に対処することは困難であります。
これに対処するものとして氏族が結束し会の組織を更新し運営基礎を確立することにより古い伝統と歴史を守り文化の宣揚に資しまた将来の向上発展を意図するものであります。
これらの目的を達成するために、ここに財団法人賀茂県主同族会を創設しようとするものであります。
昭和四十年七月二十一日
賀茂県主同族有志一同 |